過激な性描写はないが、春樹ワールドの典型的女性ではある 村上春樹の「街とその不確かな壁」。
前回に続き消化不良の感想。
第二部の最初の章、第27章の2ページ目にはこう書かれている。
私の身にいったい何が起こったのだろう?私は今、なぜここにいるのだろう?私にはそのことが-今こうして私を含んでいる「現実」のありようが-どうしても呑み込めなかった。どのように考えても、私はここにいるべきではないのだ。私ははっきり心を決め、影に別れを告げ、あの壁に囲まれた街に単身残ったはずなのだ。それなのにどうして私は今、この世界に戻っているのだろう?私はずっとここにいて、どこにも行かず、ただただ長い夢をみていただけなのだろうか? そして、“こちらの「現実の世界」にあって、私は中年と呼ばれる年齢にさしかかった、これという際立だった特徴を持たない一人の男性だ。私はもうあの街にいたときのような、特別な能力を具えた「専門家」ではなくなっている” のだそうだ。
ちょっとちょっと、どうしても呑み込めないのはこっちの方だ。
『不思議な話』じゃなくて、矛盾した話になっていないか?春樹さまの頭の中は整理がついてるのだろうか?だったら、何がどうなってんだか教えてほしい。いや、春樹さまがそんなことをするわけがない。どなたか、攻略本を書いてくれませんか?
第二部で、('ぼく’じゃなく)'私' は書籍取次業の会社を辞め、福島県の図書館の館長に就く。
そして、まあ簡単に言ってしまえば不思議な体験をするわけ。
この町でコーヒーショップを経営する女性-’とりたてて美人とは言えないまでも、感じの良い顔立ちの女性だ’-と食事をする仲になるが(このような街でいったい1日に何人の客が来て、ブルーベリー・マフィンが何個売れるというのだろう?)、二人で逢うようになってからまだそれほど経っていないのに、彼女は ’私’ に「簡単に言うと私はセックスというものにうまく臨むことができないの」って早々に告げる。いったいなんなんだ、この女性。
そしてまた、このあたりですでに口の利き方もなれなれしいというか、まあ、過去の春樹作品にでてくる女性たちと同じようなじゃべり方になる。「多かれ少なかれ、というのは、具体的に言ってどれくらいのことなのかしら?もしよかったら教えてもらいたいんだけど」みたいな。
過激な性描写がないのはありがたいが、このしゃべり方になって、この女性が最初に出てきたときの好印象は私の中から消え失せた。
第二部では、壁に囲われた街の壁は ’疫病を防ぐため’ に造られたことが明らかになる。おっ、コロナ禍をからめてきたのか?と思いきや、全然。疫病についてのツッコミはない。
やれやれ。
いずれにしろ、「
ロシア五人組」で、最後まで名前を思い出してもらえなかった
キュイが気の毒だ。無理もないけど。
「街とその不確かな壁」の壁を行ったり来たり(なのかどうかも定かでないが)。
さて、あとから『ベこ餅』でも買いに行ってくるか。